2025.04.18

物流クライシスとは?私たちの生活に欠かせない物流の危機的状況について解説します

物流は私たちの生活において欠かせません。

日常で買い物をしに行くコンビニやスーパーに商品が並ぶのも物流があってこそです。また、ECで買い物を行い早ければ翌日に届くのも洗練された物流システムのおかげです。

しかし、最近は物流の危機的状況が叫ばれています。これまでと同じ物流の維持が困難になりつつあるのです。

この記事では、物流クライシスとは何なのか、その原因や影響など基本を解説いたします。また、2024年問題と2027年問題についても取り扱います。

物流クライシスとは?

物流クライシスとは、物流に問題が生じ、これまで通りの物流サービスを維持できなくなる状況のことを指します。

時間経過や簡単な対策で解決できる問題ではなく、さまざまな問題が重なって起きる物流の危機的な状況です。

私たちの生活において物流は欠かせない生活のインフラであり、物流クライシスが起きることで社会や経済に多大な影響を及ぼします。

物流クライシスの主な原因

物流クライシスの主な原因として、ドライバー不足、ECの需要拡大、インフラの老朽化・災害リスクが挙げられます。

ドライバー不足

物流における最も一般的な運搬方法はトラック輸送ですが、トラックのドライバーが不足していいます。

国土交通省によれば、2022年時点でのトラックドライバーの平均年齢は48.9歳とされています。こちらは全産業平均の43.7歳より5歳高い数値です。若者の参入が少なく高齢化しているため、このままいけば将来的に人手不足が悪化し続けてしまいます。

また、2022年時点での平均労働時間は212時間です。全産業平均の177時間よりも35時間多くなっています。しかし、平均年間所得は456万円と、全産業平均の497万円よりも少なくなっています。労働時間が長く、所得が平均より低いというアンバランスな状態では、なかなか人が集まりません。

長距離移動が多くなりがちでワークライフバランスが取りづらく、積み下ろし作業の肉体的負荷や時間指定などの厳しい部分も人が離れていく要因と言えます。

データ参照:国土交通省『令和5年版国土交通白書

ECの需要拡大

2020年以降、コロナ禍を皮切りにECの利用は大きく増え続けています。

BtoC-ECの市場規模グラフ

上のグラフはBtoCECの市場規模を表したものです。

2021年には20兆円を超え、2023年にはさらに24兆円を超えています。わずか2年で約4兆円伸びており、それまでと比べるとかなり早いペースで伸びていると言えます。

市場が伸びるということは、荷物の配送量も増えるということになります。1件あたりの配送が小口・個別配送となり、効率にも限界があります。

また、大手ECでは即日・翌日配送のサービスを設けているところがあること、再配達になってしまうことが多いことも現状です。

便利なサービスですが、需要に追いついていない、ドライバーに負担がしわ寄せしているという事実も考えなければいけません。

インフラの老朽化・災害リスク

現在、高速道路や橋梁、湾岸施設などが建設から年数が経ち、劣化を改修するための工事や通行規制が増え、移動時間とコストの増加につながります。

また、地震や台風、積雪などの災害によっても物流はストップしてしまいます。地方や過疎地など地域によっては陸路が唯一のライフラインとなっており、そこが途切れてしまえば孤立化します。

インフラが発達しているとはいっても、物流に必要な要素のどこかが途切れてしまえば物流全体が止まります。

最近は異常気象も増えてきているため、自然現象に対応できる手段はすぐに取ることができないという難しい問題も抱えています。

人件費の上昇

最低賃金の引き上げ、人手不足の影響で人件費も上がっています。人件費も商品価格に反映せざるを得ない状況です。

特に外食や物流業界では人手不足が深刻化しており、人材を確保するために賃金は重要な要素の一つになっています。また、国からの賃上げ要請もあったりと半ば強制的に賃上げを行う必要も出てきています。

人手不足の対策として賃上げだけでなく、AIや自動化ロボットの導入もすすめられています。

2024年問題と2027年問題

物流に関する問題といえば、2024年問題が注目されていました。また、最近では2027年問題という新たな危機的状況が発生すると予想されています。

2024年問題

024年問題とは、物流業界の労働時間に規制が入ることによって物流の混乱や供給能力低下が生じるという問題です。

2019年に施行された働き方改革関連法による規制強化、20244月からはトラックドライバーにも時間外労働の上限が適用されました。

働く時間に制限が科されることにより、トラック輸送の供給能力低下、配送遅延や荷物が届かないといった事態が起きると予想されていました。

運賃の上昇も懸念されていましたが、現在は物価上昇が続き、その要因として物流コストの増加も挙げられます。実際に運賃の上昇も影響しているのではないでしょうか。

2027年問題

2027年問題とは、ドライバーの高齢化や定年退職のピークにより、物流業界の人手不足がさらに加速する問題です。

2022年時点でのトラックドライバーの平均年齢は48.9歳でした。全産業より高く、ドライバーの多くが50代、60代であり、2027年頃に定年退職、大量離職が予想されています。

若手人材の確保が難しく、ベテランドライバーが去って若手もいないという人手不足の状況となってしまいます。

さらなる輸送機能の低下、特に地方や中距離輸送の物流機能が弱まり、サービスレベルの低下や度重なる運賃の上昇が懸念されます。

2024年問題と2027年問題の比較

2024年問題は「制限」が軸にあり、2027年問題は「人手不足」が軸にあります。どちらも物流に関する問題ですが、その問題の主軸が違ってきます。

両者は連続して起こる問題であり、2024年問題の後を引きながら2027年問題の影響も受けてしまえば危機的状況は深刻化していく一方です。

物流クライシスの影響

配送遅延

物流クライシスによって配送の仕組みが機能しなくなると配送に様々な影響が出てきます。

ドライバーの不足や災害による通行止めで荷物を予定通りに運べない、繁忙期に荷物の量が増加し、処理が追いつかない、ECの即日出荷に人手が割かれ、他の出荷が後回しになるなどの遅延が考えられます。

配送が遅れるということは商品の欠品にもつながります

商品があっても店舗や倉庫に届かないため在庫がなくなり、生産工場でも必要な材料やパーツが不足して完成品が作れなくなるといった事態も起きてしまいます。

また、生鮮品など消費期限が短いものにとっては、配送の遅れは致命的でフードロスの増加にもつながります。

物流コストと物価の上昇

物流クライシスの影響で運べる量が減り、物流コストが上がりその分が商品の価格に反映されるという事態にもなり得ます。

例えば、トラックを1台走らせて10万円のコストがかかったとし、2台走らせれば20万円ですが荷物は全て運ぶことができるとします。1台に100ケース積むことができる想定で計算すると20万円÷200ケース=1ケースあたり1,000円のコストになります。

しかし、物流クライシスの影響で1台しか走らせることができなくなれば、1台分の価値は上昇します。110万円で走らせることのできたトラックが115万円、あるいは倍の20万円になるかもしれません。

そうなれば115万円、15万円÷100ケース=1ケースあたり1,500円のコストになります。また、残りの100ケースはどうするのかという問題も生じます。

他にもドライバーの賃金アップや燃料費などの上昇もあり、物流コストは様々なところから影響を受けて上がってしまうのです。

運送業の倒産件数の増加

実際に、運送業の倒産件数は増加傾向にあります。

帝国データバンクによると、2024年上半期(1-6)の道路貨物運送業者の倒産件数は186件であり、前年同期の133件から39.8%増となりました。

年間最多となった2009年を上回る可能性のある数値状況となっています。(2009年はリーマンショックによる経済の落ち込みの影響を受けた)

倒産の要因としては燃料価格高騰と人手不足が多く、経営が悪化し、事業の継続ができなくなるという状況を招いています。

データ参照:帝国データバンク『「道路貨物運送」倒産動向(2024年上半期)』

物流クライシスへの対策

共同配送送業の倒産件数の増加

共同配送とは複数の荷主が、荷物を一緒の車両で同じ配送先へ運ぶことをいいます。

例えば3つの企業があるとして、通常では各社それぞれで運ぶため合計で3人のドライバーと3台のトラックが必要です。共同配送の場合、1人のドライバーと1台のトラックで3社の荷物を一緒に運ぶため人も車両も台数を減らすことができます。

各企業が協力して物流を組むことにより必要なトラック台数を減らし、配送費も抑えることができるようになります。

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働き方改革・待遇改善による人材確保

労働環境の見直しにより、ドライバーが定着しやすい環境を作り出すことが大切です。

改善例としては、週休2日制の導入、給料アップ、女性・シニアドライバーの積極採用などが挙げられます。

特に2027年問題は人手不足の影響で起きると言われているため、働き方改革・待遇改善による人材確保はかなり優先度の高い対策ではないでしょうか。

課題としては、労働時間の削減により収入が減ってしまう可能性があるという点と、値上げが続くいま、コストを上げづらい状況があります。

モーダルシフト

モーダルシフトとは、トラックなど自動車による輸送を鉄道や船舶などに切り替えることを意味します。

輸送手段を切り替えることにより、環境負荷が小さくなり、トラックドライバーの負担を減らしながら安定した物流を目指すことができます。

モーダルシフトは、特に長距離輸送において効果を発揮します。トラック1台での走行距離を大幅に減らすことができ、鉄道や船舶はより多くの荷物を積めるためコスト削減にもなります。

しかし、今までトラックで配送していたところを別の輸送手段に切り替えるための仕組みを構築するのに時間がかかることは間違いありません。

先の問題を見越して、はやめの対策を取ることが大切です。

まとめ

物流クライシスとは?私たちの生活に欠かせない物流の危機的状況について解説します

物流クライシスとは、物流に問題が生じ、これまで通りの物流サービスを維持できなくなる状況のことを指します。

物流クライシスの主な原因として、ドライバー不足、ECの需要拡大、インフラの老朽化・災害リスクが挙げられます。物流クライシスは、配送遅延、物流コストと物価の上昇、運送業の倒産件数の増加を招きます。直近では2024年問題と2027年問題が叫ばれており、現状と未来を変えるために問題の根本的な解決が早急に必要です。

キーワード

  • 物流クライシス
  • 2027年問題
  • 人手不足